宣言「映画を見に行くゾ〜 アルゼンチンババア編」


編集人Sです。ここのところ、穀雨らしく、雨が多いですね。この時期の雨は木々達にとっても、非常に大事なものらしいので、その恵みを受けている人間たちも少々の面倒は我慢せねばなりますまい。

アルゼンチンババア」という映画を見たのです。今までのSと違って随分とマイナーな映画を見たなとお思いでしょうが、これを見た理由は極めて単純です。監督の長尾直樹氏が私の中学・高校の同級生だからです。長尾君は中学の頃から映画が好きで、映画好きの仲間を集めて「映画研究会(映研)」を立ち上げたのです。高校の頃には自ら撮ったフィルムがNHKの番組で紹介されたりしてました。社会に出てからはビールのCMなどを作っていたのですが、これまでに「鉄塔武蔵野線」「さざなみ」など数本の映画を撮っているんです。すごいでしょ、と友達自慢してます。私も映画研究会に属していたのですが、なにしろ「サッカー部」の方が忙しかったもので、ほんのお手伝いしかしていません。それでも数年に一度仲間が集まるときには私も入れてもらっています。

「かわいいけど読みごたえのあるパンフレット」

映画の原作はよしもとばななが2002年に発表した小説で、世界30数カ国で翻訳されているとのこと。役所広司が演じる石彫り職人の悟は妻の死を受け入れられず、街はずれに住む世間常識を超越した変わり者のアルゼンチンババア鈴木京香)のところで暮らし始める。悟の娘みつこ(堀北真希)は葬式やら何やらごたごたを一人で済ましたが、半年後、父親がアルゼンチンババアのところにいると知り、自分のもとへ取り返そうとする。

映画に印象的に登場するアルゼンチン・タンゴは今から130年前にブエノスアイレスの港町で、移民たちのフラストレーションのはけ口として踊り始めたダンスが始まりらしい。娼婦と男がダンスの中で駆け引きを演じたことがあのセクシーな振り付けの起源であるとか、右を向いたり左を向いたり、進むと思えば戻ってきたりの姿は、当時の移民たちが、苦しいけれどもこのままこの地に留まるべきか、やっぱり故郷へ帰るべきかと迷う心を表しているとか。諸説それぞれ面白い。

映画が終わりに近づく頃から、心地よい気分を感じ始めていて、もっとこの感じが続いて欲しいと願っていたのです。その不思議な感覚が何だったのか?それをこの映画のパンフレットのコラムで海原純子先生(白鴎大学教授、医学博士)が実に鮮やかに解説してくれているのでご紹介しよう。

「死、それは誕生である。愛する人を喪失するという重いテーマを扱っているにも関わらず『アルゼンチンババア』にはその全編にさわやかな風がふいている。それが如実にあらわれているのが、、、、、、、、、、、、、、なぜここまでさわやかなのか。それはこの映画に『死』が実は再生へのスタートであり、死を受け入れたものだけが新しく誕生することができるというメッセージが含まれているからだろう。」


長尾監督は心優しき少年で、道端の花を摘もうとした同級生が「先生に見つかるとしかられるかな」と躊躇しているのをみて、「君、先生にしかられるかどうかではなく、その前に、この花がかわいそうだと思わないのかい?」などと注意していたっけ。なにかにつけ「先生に見つからない方法」ばかり考えていたSとはこの頃から違っていたのです。

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