【続】甲州種ワインのグローバル化について


『GLOBAL MANAGER』編集人のSです。

前回に引き続き、甲州種ワインのグローバル化についてです。

勝沼のグレイスワイナリーが「甲州」というブドウから、何とか海外で通用するようなワインをつくりたいと、ミレジムというワインの販売会社に相談したのが、2003年のこと。そこからサポートグループが結成され、甲州種ブドウのDNA鑑定が行われた結果、このブドウの起源がヨーロッパ原産のヴィニフェラというワイン作りに適している品種であることがわかりました。また、世界的な白ワインの権威であるワイン醸造家のドゥニ・デュブルデュー教授をコンサルタントに迎えるなどして、ブドウの栽培方法や、ボルドー液という銅を含まない消毒液の使用といった指導を受けながら、プロジェクトが進んでいったのです。この辺りの事情は2005年5月にNHK BSで「甲州ワインを世界の舞台へ」として放送されたので、ご覧になったか方もいらっしゃるかもしれません。

こうしてデビューした白ワイン「KOUSHU」はワイン評価の第一人者ロバート・パーカー氏が日本料理に合うという意味で「すしワイン」と高く評価した結果、生産された2000本はほとんどアメリカに輸出され、完売したそうです。

そしてもう一つ、同じく2003年に、画期的な出来事が起こりました。それは、メルシャン勝沼ワイナリーの味村さんという方が、ボルドー液を使わないで育てたワインの中にグレープフルーツのような香りを発するものを見つけたのです。香りが無いといわれていた甲州種ワインにはうれしい発見です。そして、ボルドー第2大学との共同研究により、その香りの素を特定することに成功。白ワイン用のブドウとしては国際的に定評のあるソービニヨンブランと同じ成分であるこの香りの素は「きいろ香」と名づけられました。その香りが最大になる時期にブドウを収穫する必要があるわけで、様々な分析が行われた後、2005年からは「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2004年」として4722本が2307円で発売の運びとなりました。このワインは日本ブドウ・ワイン学会の2005年技術賞を受賞しています。メルシャンの偉いところは、このきいろ香についての技術を全て公表していること。精密な分析器がない小さなワイナリーでもこの結果を共有できるのです。Sも「甲州きいろ香2005年」を飲んでみましたが、確かに柑橘系の香りがする美味しいワインでありました。この香りが高くなる時期とワインに大事な糖度が高くなる時期が一致しないのが難しいところで、これからヴィンテージを重ねていくうちに洗練されていくのでしょう。


右:シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2006年
左:JALのファーストクラスで提供される勝沼醸造のアルガブランカ ピッパ

Sは山梨におけるワイン事情しかわかりませんが、ワイン作りの盛んな長野や山形、北海道辺りでもいろいろな変化が起きていることでしょう。世界の日本食ブームのおかげで日本のワインが注目され、品質が上がって、有名になるのはありがたいのですが、ワイン用のブドウの生産を急に増やすわけにもいかず、そのうち簡単には手に入らなくなっちゃったりして。そんなことより、今やオーストラリアを抜いて世界第6位のワイン生産国になった中国から安いワインが大量に入ってくることを心配する向きもあるし、他のアジアの国々もワインに目を向け始めています。あのカンボジアがといっては叱られるかもしれませんが、カンボジアや台湾、タイ、スリランカインドネシアベトナム、インドなどアジア12カ国で生産されているそうです。

「アジアで広がるワイン造りが示唆するものは興味深い。まずグローバリズムの時代であってこそのものである。資本と技術と経験を必要とするワイン造りは、ワイン先進国の技術の移転と指導が無ければ不可能。土壌と気候にあったブドウ品種を選ぶ必要もある。ワイン造りを媒介に、人・技術・資本の移動がアジアで静かに進行中なのだ。」
「ワイン造りの拡大が示す2点目は、生産国の安定である。ブドウの木は何十年とたってこそ、ワインのもととなる良きブドウの実をつける。またワインには熟成のための年月が必要で、国の安定がなければワイン造りの投資をしようとはならない。」
「そして第三に、アジアにおけるワイン造りは、中間層の増大と密接に関連している。アジア各国の中間層は新しいライフスタイルを生み出しており、ワイン嗜好もその一つ。」
毎日新聞2007年4月7日「グローバル・アイ」より)


ところで、甲州種ワインに地球温暖化がどのように影響するのだろうか?心配し始めればきりが無いのですが、ワインの前に自分のことを心配しなさいといわれそうなSでした。

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